デジタル広告が引き起こすブランドリスクの現状を発表
主要900サイトで検証、「デジタル広告プレースメントのブランドリスク調査」

2019/08/29

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ここ数年、マーケティング活動の中でデジタル広告を積極的に活用することが主流になり、多岐にわたるターゲティング手法でブランド認知や顧客獲得・販売活動を行っているかと思われますが、一方でデジタル広告によるブランド毀損のリスクも高まっており、マーケティング活動において、避けて通れない課題となっています。

対策としてアドベリフィケーション・ツール(ブランド毀損や不正なボットの検知/防止ツール)を導入しても100%のリスク回避ができない状況にあり、より多角的にリスク発生状況の判定を行う必要性があります。今回、デジタル広告掲載のリスクの有無について、現状理解する為の参考資料として、このレポートが皆様のブランド・マーケティング活動の一助となればと思います。

SPIインタラクティブ
シニア・ディレクター
田中一誠

*「ブランド毀損や不正なボットの検知/防止ツール」


【調査目的】

デジタル広告におけるブランドリスク調査

【デジタル広告プレースメントのブランドリスクの問題点】

ディスプレイ、サーチ、SNS、ビデオ広告など多岐に渡るデジタル広告の中で、ブランドサイド側が自社広告の出稿先を完全把握できない状況にある。実態確認の為、広告出稿先におけるブランドリスク、特にブランド棄損の可能性の有無について調査分析した。現状、問題点は大きく2つある。

  1. 広告掲載先のサイトコンテンツやモバイルアプリコンテンツのクオリティの問題。
    違法性や公序良俗に反するコンテンツが含まれるサイトへの広告出稿により、広告掲載したブランドがネガティブな印象を受けるケースが該当する。
    1. グローバル食品メーカーの広告が、卑猥なビデオコンテンツ内に掲載される。
    2. グローバルFMCGメーカーの広告が、過激な政治主張をする団体の動画サイト内に掲載される。
    3. 承認済医薬品メーカーの広告が、不適切な医薬品の説明をしているキュレーションメディア内に掲載される。
  2. 広告掲載先のサイトやモバイルアプリ上に同載される他社広告の問題。
    広告掲載先サイト内に複数の広告枠があった場合、自社広告とリスクを含む他社広告が同時掲載されることにより、自社ブランドがネガティブな印象を受けるケースが該当する。
    1. 不当表示の広告。景表法に抵触している。掲載されている情報が事実無根など。
    2. 詐欺が疑われる商品/サービスの広告。
    3. 広告表現が卑猥あるいは不快感を与える広告。
    4. アフィリエイトの広告(メーカーの直接広告ではなく、アフィリエイトを介在させた広告)。
    リスクのある他社広告主は、「信用」や「ブランド価値」が大きい企業を利用して、自社の広告や商品/サービスの信頼性を上げ、ビジネスを拡大するチャンスをうかがっている状況にあると言える。

【期間】

分析対象広告出稿期間:2017年10月-2018年9月
サイトコンテンツ調査期間:2019年2月-2019年6月
サイト内掲載広告調査期間:2019年2月-2019年6月

【調査対象】

  1. 主要サイト内の掲載コンテンツ
  2. 主要サイト内の掲載広告

【調査方法】

  1. 弊社複数クライアントの広告出稿実績のあるプレースメントリストを使用。
  2. 独自に主要サイト(メジャーサイト*)を選定し、サイトコンテンツ及び同載広告の目視によるチェック**を行った。
  3. 対象広告はディスプレイ広告。(一部ビデオ広告含む)
  4. 対象ディバイスはPCのみ。スマートフォン及びAPP上のコンテンツ及び広告は未確認。
  5. 目視チェックのプレースメント数(サイト数)は主要サイト927。
  6. リスクカテゴリー分類は15項目、同載広告チェックではLA(Language)を除く14項目とした。
    AP:
    Adult/Pornography(アダルトコンテンツ/ポルノ)
    CP:
    Copy rights/Piracy(コピーライツ/著作権侵害)
    DM:
    Drag/Medicine/Medical device and related (ドラッグ/薬/医療機器/医療関連)
    AL:
    Alcoholic beverages(アルコール飲料)
    TA:
    Tobacco(たばこ/電子たばこ)
    GA:
    Gamble(ギャンブル)
    HB:
    Health/Beauty related(健康/美容)
    FP:
    Financial product/service(金融商品/金融サービス)
    HA:
    Hate(ヘイト)
    WE:
    Weapons(兵器/武器)
    VL:
    Violence(暴力)
    PO:
    Politics(政治)
    MR:
    Morally Reprehensible(モラル/非道徳・倫理)
    OT:
    Others(その他)
    LA:
    Language(言語)

*主要サイトとはSPIインタラクティブで選定したサイトを指す。主要サイトの選定基準は、①運営者情報が明確であること。②複数クライアントで広告出稿レポートに記載があったサイト。

**主要サイト内のコンテンツ及び同載広告を各々10-20ページ程チェックし、確認できたリスクコンテンツ及び同載広告を抽出しデータ分析した。同載広告の出現については、目視チェックの段階で、リスク広告がキャンペーン展開していない場合、出現しないことを前提とする。またDSPなどのターゲティング広告の特性上、特定の検索キーワードなどを入れてリスク広告が出現するかどうか確認している。目視チェック段階でオフ・ターゲットの場合、フリークエンシーキャップの影響、ブランドセーフティツールによる広告出稿停止プログラムなどにより、リスク広告の出現率は100%ではないことが前提である。プレースメントリストは「トップドメイン」のみになる為、過去広告掲載の掲載ページまでは断定できないので、基本的にはトップドメインから複数ページのサイトクローリングを行い、チェックを実施した。

***デジタル広告出稿先として主要サイトを弊社独自視点で選定。主要サイトは総合ポータル、専門ポータル、ブログポータル、ニュースポータル、動画サイトを含む。

****メーカー側・ブランド側の基準により、リスクと判定しないカテゴリー及び各カテゴリー内のレベルもあることに注意が必要。

【調査結果】

(A) サイトコンテンツリスクと同載広告リスク:全体の割合

  1. 既存クライアントの広告掲載実績総数44,904の主要サイト927の中で、何かしらのリスク要因であるコンテンツ及び同載広告が含まれている割合は57.8%と高かった。現状リスク要因が含まれていない主要サイトも今後のコンテンツ内容変更で、リスクコンテンツや今回チェックした際に出現していないリスク同載広告が入ってくる可能性があることは理解しておく必要がある。(図1) リスクサイトvsリスク無サイト
  2. 全サイトの確認はできていないが、主要サイト以外(約44,000)は管理運営者不明・未表示が多く、かつコンテンツ内容も「まとめサイト」や「個人ブログ」が多かった。その為、UGC(User Generated Contents)ということもあり、結果的にはクオリティが低いと思われるサイトへの広告出稿も非常に多くあったと言える。

(B) サイト内のコンテンツに含まれる主なリスク要因

表1

  1. AP:Adult/Pornography(アダルトコンテンツ/ポルノ)

    アダルトコンテンツ/ポルノコンテンツを含むサイトが全体の6.6%だった。アダルトコンテンツは、アイドルの水着写真からモザイクの無い陰部の画像、あるいは卑猥なテキストコンテンツなどその度合いに幅がある。日本の法令で直ちに違法コンテンツで無いものが殆どはあるが、例えそのようなサイトにターゲットが訪問しているとしても、自社広告が同サイトに掲載されることは、ブランド棄損のリスクがあると考えられる。
  2. MR:Morally Reprehensible(モラル/非道徳・倫理)

    ゴシップや噂、過去の刑事事件の被害者情報などを掲載しているサイトも多く、上記アダルトコンテンツと同様に、ブランド棄損になるリスクがあると言える。
  3. LA:Language(言語)

    今回のクライアントプレースメントリストは基本「日本語」環境をターゲットとしているはずであるが、一部日本語以外の言語サイトへの広告出稿が見られた。ブランド棄損には当てはまらないが、オフ・ターゲットへの無用な広告出稿費用となる。
  4. リスクカテゴリー全体を母数としたリスクカテゴリー割合としてはアダルトコンテンツ/ポルノ:27%、言語:22%、モラル/非道徳・倫理:16%と言語以外の問題は比較的読者への関心を引ける話題性・注目性のコンテンツが多い。(図2-A) 図2-A
  5. サイトのカテゴリー別では、オフィシャルのポータルサイトが最も多く、全体の64%を占めた。これは取り扱うコンテンツのカテゴリー幅が広く、問題となるコンテンツ要素が含まれやすい為と思われる。(図2-B) 図2-B

(C) 同載広告に含まれる主なリスク要因

表2

  1. 同載される広告主のカテゴリーでリスク要因があるのは、広告商品やサービス自体、広告コピーや画像、LP先の広告内容などが上げられる。ディスプレイやサーチ広告の誘導先がメーカーの公式サイトではなく、アフィリエイトサイトとなっている場合には、特に注意が必要である。調査した段階で見受けられたケースは下記製品やサービスの広告である。(図3-A)
    • ヘルスケア関係/美容関係/健康食材/サプリ
    • 情報商材/投資商材
    • 副業/モニター
    • 出会い系/マッチングサービス
    • アダルトゲーム
    図3-A
  2. アフィリエイトサイトへの広告は二つのケースが見受けられた。
    1. 評価・紹介している製品やサービス自体には問題が無いが、記載内容に疑問符がつくケース。アフィリエイトの広告展開は“完全”成果報酬型(CPA)のため、アフィリエイト側は獲得を増やすべくサイトやコンテンツを構築するが、成果報酬を得る為に、広告視聴者や実際の消費者が誤解・誤認させるような表記しているサイトが多々見受けられた。獲得方法はさておき、事実無根、根拠や参照元の無い情報であったとしても、アフィリエイト側は報酬を得られるという仕組みに問題があると言える。広告主側としてはこの様なアフィリエイトを排除したいはずである。
    2. メーカー又は販売者が詐欺まがいの商材・サービスのマーケティング活動をする際に、アフィリエイト広告を迂回し、広告自体の責任の所在を回避しながら購入者を獲得しているケースがある。多くの場合、アフィリエイト運営者情報の記載が無い。
  3. AP:Adult/Pornography(アダルトコンテンツ/ポルノ)

    アダルトコンテンツの詳細は下記分類を行った。海外のビデオサイト以外ではモザイク無しの女性陰部などの違法となる広告は見当たらなかった。アダルトゲームの場合、ディスプレイ広告ではモザイクなどがかかっているものの、注目度を高めるための広告施策として「卑猥な画像とコピー表現」が出現している。

    出会い系/マッチングサービスは違法ではなく、18歳以上を対象としたものではあるが、サービス自体の利用方法の問題も考慮すべきリスク要因と考えておく必要がある。

    新聞社系ポータルサイトでは「キャバクラ」の求人広告が出現しており、有名サイトであるからリスク要因が無いとは言い切れない状況にある。

    ブログポータルでは法人・個人がブログ開設を行っている関係上、サイトコンテンツの中身の審査などは不十分な可能性があり、ブログまとめサイトでは、風俗サービスのコンテンツ上でも広告スペースが見受けられる点に注意が必要である。勿論、ターゲットの興味・関心度を考えるとアダルトコンテンツ自体に注目度があり、視聴があることを前提にブランドにおける広告掲載の適正判断が必要と言える。(図3-B)

    表3

    図3-B
  4. TA:Tobacco(たばこ/電子たばこ)

    タバコカテゴリーでは「電子たばこ(ベイパー/VAPE)」類の広告が出現している。広告上では該当商品が「たばこ」ではなく、「リキッドを熱して水蒸気を楽しむアイテム」というコピーになっており、広告上では「未成年禁止」の表記は無かった。
  5. OT:Others(その他のカテゴリー)

    同載広告のリスクで「新たな脅威」となるカテゴリーで、「法的にグレー領域」あるいは「直ちに違法状態を確認できない」サービスや商品の為、非常にリスクが高い。これは景品表示法、金融商品取引法、薬事法などの法令違反、詐欺などの犯罪行為を、政府監督官庁が違法認定や被害確認ができるのは、広告掲載後になる為である。

    また貧困ビジネスやソーシャルレンディングなどの広告も運営者や資金運用の透明性などに疑問があるケースがある。

    従って、事前にブランドリスクが発生する可能性のあるリスク広告がサイト上で見受けられれば、同載されないような対処が必要である。同載広告によるブランド棄損が発生した場合、事後のダメージのリカバリーは難しくなる。

    TVの番組やニュースでもここ1年程で取り上げられることが多くなっている状況で、国も「消費者庁」で問題提起している状況がある。DSP経由が多いとはいえ、パブリッシャーサイトの広告審査・管理・監督が不十分の為、今後も同載広告として掲載されるリスクがある。(図3-C)

    表4

    図3-C

【今後の見通しと対応策について】

  1. 広告掲載サイトのコンテンツ・クオリティについて

    現状ではUGC(User Generated Contents)が含まれるサイトやコンテンツはサイト運営者側での監視・管理体制の強化が進められているが完全では無い為、プラン時にUGCコンテンツを含むサイトやメディアを選択する場合には、リスク度合いの確認が必要である。このリスクを回避する為、PGC(Professionally Generated Contents)でクオリティが担保されているサイトを積極的活用する傾向もある。

    特にアドネットワーク経由での広告配信では、クオリティが担保されているサイトかどうかまでは選定できていないので、広告配信先に注意が必要となる。
  2. 広告掲載サイトの他社広告のクオリティ

    デジタル広告媒体の多様化とアドテク・ツールによる効率化の進歩により、デジタル広告を活用するプレーヤーの裾野が広がった。各メディアは自主広告掲載基準を設けてはいるが、TVCM広告ほどの明確ではなく、掲載・不掲載の判断理由も基本的に非公表である。メジャーではないメディアは広告審査基準が低い、または無いに等しい状態に見受けられ、ブランド棄損に関わる問題点も徐々に表面化してきている。簡単かつ効果的に広告訴求ができる反面、違法性の高い商品やサービスを売りたい広告主は、現状のデジタル広告審査や政府取り締まりの不備を突いて、マーケティング展開をしている状況とも言える。

    パブリッシャーサイト側も広告収益に影響する訪問者数を増やす為、過激なコンテンツ、画像・映像、キャッチコピーなどを展開する。ターゲット獲得の結果としてクオリティの低いサイトや広告が乱立している状況である。

    デジタル広告のビジネスモデルによる問題点でもあるが、メジャーなパブリシャー側でも、この様な広告配信やビデオコンテンツ、アフィリエイトやブログサイトへの広告審査やコンテンツ監視体制を整えるように進めているが、現状では完全に排除することはできていない。またメジャーなサイトであっても監視・監督などもほぼ行われていない状況が見受けられる。 Yahoo!ではYDNについて、健全化を進める為に、成果報酬型サイトへの広告配信の審査を厳しくしてきている。

    また少なくはなってきているが、ボットサイトも若干見受けられ、無駄な広告費が支払われているのが現実と思われる。今回のプレースメントリストの中にはサイト運営者が不明で、場合によっては不透明なお金の流れが発生するリスクもある。
  3. 総括

    現状では一括して解決する方法は無く、今後もこれらの問題点については広告出稿側のメーカーやブランド、プランニングや広告媒体選定を行う広告代理店、広告を露出させる広告媒体社、適切でコスト効率化を図る広告配信のSSP/DSPやアドフラウド/ブランドセーフティなどを取り扱うテックベンダーの各社が取り組む問題になっている。

    弊社クライアントでも、ブランド棄損やボットなどの広告リスクへの知見や会社としての取り組みには違いがあり、各社に必要なアクションはブランド棄損だけの問題ではなく、ビジネスモデルやビジネスゴールなどにより各々対応していく必要がある。

    以下、考えられる対応方法を記載する。
    1. 自社広告のブランドリスク排除のガイドラインを策定し、広告代理店へのプランニング時の出稿先媒体と広告掲載面の選定を指示する。条件を厳しくすることにより、広告出稿サイトや広告掲載面が減る可能性があり、これによりIMP/Clickの減少やターゲットリーチが狭くなることが想定される為、ターゲットやKPI、会社の広告倫理規定とのバランスなども同時に検討が必要である。
    2. 媒体選定では「プレースメント・レポート」が提出または確認できる媒体を選ぶ。プレースメント・レポートが提出または確認できない媒体は、広告出稿先のリスクについて媒体先に確認が必要である。
    3. デジタルにおける広告審査はまだ十分で無い為、広告出稿先のサイト及び広告管理だけではなく、アドテク・ツールの導入による、自社広告のブランドリスク回避対策を行う。
    4. アドテク・ツールによるボットやブランドリスク回避だけでは不十分な為、第三者による広告出稿チェックを実施する。特にリスク要因となるアダルト/ポルノカテゴリーの画像露出度、ポーズ、モデル年齢(未成年者)、同載広告のサービスや製品自体の詐欺やその他の違法性などの判定はアドテク・ツールでは難しく、ツール以外の方法が必要となる。また広告コピーや製品/サービスの違法性の判定については法律や業界規定など専門的な知識が必要となっている。
    5. ブランド棄損を排除する必要がある場合には、ホワイトリストを策定し、代理店運用を行う。ホワイトリストはサイトのコンテンツや同載広告の出稿主が絶えず変わることを考慮し、定期的にチェック及び更新する。ホワイトリストでもドメイン偽装のリスクがあるので、偽装回避についても検討が必要である。
    6. 既存オープンオークションのDSP経由の広告出稿ではブランドリスク完全排除は現状難しい為、DSP選定の見直しとともに、PMP(プライベート・マーケット・プレイス)活用も検討する。但し広告掲載先については選定・不掲載などのコントロールができることが前提になる。

文責:田中一誠(シニア・ディレクター)、土井貴博(CEO)、朝倉倫子(シニア・マネージャー)


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